顎顔面口腔歯科医療では、多くの疾患で痛みが主訴になる。そのため、診察に際しEBMに基づく正しい医学的診断のもとに、症状の一時的緩和でお茶を濁さずに、疾患原因の根本的治療を正しく行うことが治癒を導く。医学界では、基本的に厳正な『鑑別診断』を行うことによって病気の原因・病期・部位・程度を特定し、治療法を決定遂行することが医療の基本となっている。
しかしながら、歯科医療の現場で通常行われている「痛みの基準」は、熱いものや冷たいものでしみる痛みは「歯髄炎」、冷たいものでしみる場合は「虫歯」または知覚過敏であり、歯槽膿漏は急性期以外では痛まず、「智歯=親知らず」は広めの範囲に痛みを訴えるという程度の区別である。顔の痛みは顔面神経痛、顎の痛みを歯痛と言うような感覚的表現である。
運動神経根から成る顔面神経に神経痛って何。また、三叉神経は知覚神経根と運動神経根から成り立っているが保険適応項目には三叉神経の三つの神経である眼神経、上顎神経、下顎神経の名称は無く単に下顎神経の終枝である頤神経があるのみであるがこれって何。味覚を司る顔面神経の分枝である鼓索神経や舌咽神経はどうしたの。三叉神経の運動根に支配される咀嚼筋だけでは咀嚼はできないが、精密に連動する舌筋群(舌骨上筋)や頬筋群については何。嚥下運動の第一相の舌骨上筋群と咽頭挙筋群や口蓋帆張筋の連動は何。唾液の分泌支配は自律神経と顔面神経と三叉神経が協調支配するがドライマウスって何。骨病変は痛みが無く進行するのは何故。舌痛症の原因は何、鎮痛剤の投与が原因治療になるの。顎関節症って本当に噛み合わせの病気かな。交感神経の過緊張症候群であるのに。顎が痛いときに耳の奥が痛むのは三叉神経が頭蓋骨を出て抹消に分布する前に頭蓋骨内で鼓膜筋に分枝を出しているからであるが・・・。三叉神経全体へのアラーム機構による放散痛が主訴となることが多いのだがなどなどである。
歯科臨床の場では診察する各歯科医の言う事が各々全て違うため『歯医者不信』という根源的な厳然とした事実がある。
医学では「症候学」というものがある。各々の症状についての鑑別診断と確定診断を導く諸臨床検査が実施され診断名が得られる。そして、その診断に基づいた疾患治療・原因治療が遂行される。EBM(医学的根拠)に立脚する医療が真の医学であり、すべからく医療人の原点である。
顎顔面口腔歯科医療は、発生学的に同一の胎生組織が分化して形成される身体領域のその各々の組織に発現する単独症状か複合症状を伴う疾患あるいは疾患群に対する総合医療であることを銘記したい。
『痛み』は生体のアラーム機構で生体防御反応であり、自己治癒への初動反応である。「痛み」は疾患の最前線の闘いの情報(治癒への闘い)である。この生体防御と闘いの情報の発信元は《 いつ、どこで、どの部位が、どのようになったか、現在どのように経過しているのか 》 いわゆる英語の4W1Hである。
そこで、痛みを解読するにはどうするか。顎顔面口腔領域の神経系の基本はどうなっているのかとなる。
頸部(首)から上の領域は第1~第12脳神経の直接支配になっている。原始生物から進化を経て、生命を維持する生体の最前線としての機能すなわち外来刺激や外敵から身を守るための防御反応として、また構音・咀嚼・嚥下・味覚・知覚・唾液分泌・消化器と呼吸器の一部としての機能を営むための複合器官を恒常的に保つためである。《神経学は後日記》。
この領域に発現する病態に対しての医療は当然のことながら緻密な鑑別診断と確定診断のもとにEBMに基づいた原因療法と機能回復がなされなければ真の医学とは異質の『歯科処置』の範疇に終始することとなるのだが。
